2. エラーと危機
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1. ヒューマンエラーとは何か
1-1. 日常生活の中の失敗
大惨事につながる失敗も、我々が日常的に経験している失敗の延長線上にあり、その本旨ウハ同じ
日常の些細な失敗が発生する機序を理解できれば、それによって危機を回避できるかもしれない
1-2. ヒューマンエラーの定義
人間が犯す失敗
工学
人は機械とともにシステムを構成する要素の一部
人由来のトラブルがヒューマンエラーとされる
心理学
人そのものに焦点が当てられる
特に行為者の意図性に注目して、ヒューマンエラーが定義されることが多い
心理的な活動が意図した結果を達成できなかった場合も、ヒューマンエラーとしている
→心理学においては、動作や行動の失敗だけでなく、判断や意思決定の失敗もヒューマンエラーと見なされる 1-3. ヒューマンエラーの分類
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リーズンの分類
意図しない行為
やろうとしていたことは正しかったのに、それを実行しようとした段階で失敗してしまう(意図しない行為が生じる)
"うっかりミス"によって生じるエラーが典型的
記憶の欠落によって生じる意図しない行為に伴うエラー 意図した行為
そもそも正しいと思ってやろうとしていたこと自体が間違っていた場合
行為者は、ミステイクによって生じた結果それ自体を意図していたわけではない
やってはいけないことを承知した上で行う
エラーに分類されていない
2. ヒューマンエラーと人間の認知特性
2-1. スリップはなぜ起きるのか
一方で人間は、ある行為を習慣化することで、それに払う注意を少なく済ませることができるようになる
熟達者は、慣れた作業には最小限の注意しか払わない
注意の欠如によって生じるスリップは、熟達者にも起きやすい
習慣化された動作は、何らかのトリガーがあると自動的に作動してしまうことがある
e.g. マンションの非接触キーに交通系ICカードをかざしてしまう
入場のために認証機能を用いるという概念的類似性がトリガーとなって、鉄道利用時の習慣化された動作が発動した
2-2. ラプスはなぜ起きるのか
ラプスは記憶のエラーであり、思い出すべきものが思い出せないことによって起こる 記銘、保持、想起のどの段階でもラプスにつながる問題が生じうる 記銘の段階
人間の情報処理はある程度、うまくいきさえすればいいようにできているので、我々は、普段、頻繁に扱っているものすら正確には覚えていない
保持の段階
記憶は減衰する
他の記憶と混じることで正確でなくなることも知られている
想起の段階
記憶自体は正確に保たれていたとしても、肝心なときにそれを想起することができないこともある
さらに問題と成るのは思い出さないといけないことを自体を忘れてしまう場合
2-3. ミステイクはなぜ起きるのか
情報処理容量の限界からくる不十分な情報を補完して意味のある情報として理解することができる
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文脈からごく自然に知識を利用して理解をしている
これは人間の優れた認知特性であり、コンピュータにはなかなか真似ができない能力
知識を持たない幼児であれば2つの文字は同じ形に見えるだろう
熟達者であるからこそ、こうしたエラーを起こしうる
3. ヒューマンエラーを防ぐ
3-1. 人間の認知特性に応じた防止策
1つは前項で説明したヒューマンエラーの発生機序を踏まえ、人間の認知特性に応じた対策を考えること
スリップを防ぐには、マンネリ化した動作にも注意を適切に払われるような工夫が必要
鉄道職員などが行う指先呼称はその典型
こうした指差呼称も、習慣化してしまうと、やがては無意識に委ねられ、エラーにつながる危険性がある
肝心なのは重要な作業を行う際には、必要十分な注意がそれに向けられること
ながら作業は、必要な作業に配分できる注意を減じることになるし、注意を阻害する騒音や割り込みなどがあると、スリップが生じやすくなる
人には疲労があり、長時間注意を持続し続けることが困難
長時間にわたって多くの注意を要するような作業は、それ自体、避けられなければならない
ラプスを防ぐためには、記憶を外在化することが有効
メモ、リマインド
ミステイクを防ぐための方策としてよく利用されるのは、複数人での確認(ダブル、トリプル・チェック)
注意したいのは複数人で同じ作業にあたると、社会的手抜きが生じる可能性があるということ 責任が分散され、エラーが見逃されてしまうことがある
責任の所在を明確にすることが重要といえる
また、エラーの指摘というのはしにくいもの
互いに協力してエラーの有無を確認する者の間に上下関係があると指摘しにくい
組織の中のヒューマンエラーを防止するには、個人だけではなく、組織全体で対応できる仕組みを考えることが重要である
3-2. 原因は人間にあるのか
ヒューマンエラーが生じると、多くの場合、そのエラーを起こした人間が咎められる
テクノロジーの進歩により、機械的な作業においては機械が効率的に遂行できるようになっている
様々な事故や災害が生じると、その原因を人間に求め、人間に責任を追求するケースが増えている
ヒューマンエラーの背後には、人間の認知特性が潜んでおり、それを無視した作業を課せば、半ば必然的にヒューマンエラーは生じてしまう
ヒューマンエラーは、初心者だから起こすものでもないし、真面目にやっていなかったり、気がたるんでいたから起こるというものではない
正しい判断や行動が自然に導かれるようなデザインを工夫すれば、エラーを減じることができる
トヨタ自動車は、社員が犯す失敗に対して独自の理論を持っており、失敗したくても失敗できない仕組みを作ることこそが重要だと考えている
3-3. システムとして考える
ヒューマンエラーを減らすためには、単一の個人でなく、その個人を含むシステム全体について考える必要がある
KLMオランダ航空のホーキンスによって提案された
SHELは人間を取り巻く4つの要素の頭文字
ソフトウェア Software
マニュアル、作業標準、規則など
ハードウェアHardware
設備、装置、機械など
環境 Environment
作業環境
人間 Liveware
人間、作業者
最近ではSHELモデルに管理(management)を加えたものがよく用いられている
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中央のLは当事者で下のLは周辺他者
このモデルの特徴
当事者である人間を中心に据えたこと
他の要素との適合性が注目されていること
各要素の境界はすべて波線→それぞれの要素が持つ特性を示す
近接要素との凹凸がうまく合致していない場合には、そこにヒューマンエラーが生じると考えられる
つまり、ヒューマンエラーを防止するには、各々の要素を検討することに加え、要素間の関係を検討し、適正化していくことが必要
このようなバランスを調製するものとして、m-SHELモデルでは、m(組織の管理体制、企業風土)が周辺を取り囲んでいる
2-4. ヒューマンエラーは必ず起こるもの
重要なのはいかにしてエラーを最小限にできるかということだけでなく、エラーは必ず起こるものという前提で対策を考えること
エラーを見越した対策をとっておくということ
損害保険会社に勤めていたハインリッヒが、ある工場の労働災害のデータから統計的に割り出した法則 1つの重大な事故や災害の裏には29の軽微な事故・災害があり、さらに、その陰には300のヒヤリハットがあるという リーズン(Reason, 1997)は、些細なヒューマンエラーが、組織のなかで重大な事故へと至るプロセスを、穴の空いたスイスチーズをメタファーとしたモデルを使って説明 https://gyazo.com/37592452f7852f29df76fb74adb7a93d
スイスチーズモデルでは、即発的なエラーと、その組織の中に潜む潜在的な事故原因をスイスチーズの穴に見立てる
完全に穴の開いていないチーズを用意することができなかったとしても、異なるチーズが幾重にも並んでさえいれば、自己へ至る可能性を最小化することができる
それでもなお、稀に不幸にも穴の位置が一致してしまう可能性が考えられる
穴を見つけたら、ヒヤリハットの段階で、できるだけ塞いでいくことが重要
そのためには些細なエラーであっても、隠蔽せず集積し分析していくような仕組みを、組織の中で作り上げていく事が必要